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2017年08月の記事一覧

2017/08/19

雨の向こうに入道雲を夢想する今日この頃、いかがお過ごしだろうか。

さて、一週間前に頒布された東方天空璋について思うところをつらねてみたい。
まずは以下のように、ノーマルとエキストラをクリアした報告から。
天空璋ノーマルクリア2
天空璋エキストラクリア2


この天空璋、ノーマル全員ノーコンクリア、エキストラ全員クリアとも、歴代で最易と思えるほど難易度が低い。
過去にも特定の少女や装備では易しいということがあったが、
全体的にここまで簡単なゲームはかつてなかったのではなかろうか。
なにより、季節開放が強力だ。
ただ、神霊廟のトランスほどには強力になりすぎず、ギリギリで壊れ性能にはなっていない。
(全体的には弾幕の難易度自体が低いので、神霊廟よりもさらに易しい)
また、プレイ側の少女が、どのサブ季節も選べるため、4人のキャラの個性がそれほど目立たない。
むしろサブ季節選択がプレイスタイルを決定するようになっている。
端的に言って、初心者に優しい作品といえそうだ。

東方天空璋について避けられない話題は、6ボス=Exボスの摩多羅 隠岐奈(またら おきな)の元ネタ、
摩多羅神についてだ。
事前に天空璋のジャケットから、川村湊『闇の摩多羅神 変幻する異神の謎を追う』が種本ではないか、
という推測が界隈に流れていたことを知っている人も多いだろう。
私もコミケ前に『闇の摩多羅神』を読了し、これが5割方来るだろう、という予想だった。
この手の新作予想はわからないところで予想するのが面白いのであって、
ネタの割れた今作、東方天空璋は新作予想するに値しない作品となってしまったのは残念である。
(余談だが、twitterの方で4面ボスには笠地蔵が来ると予想し、見事的中させられたのは個人的に嬉しかった)

結果的には、(大方の予想通り)川村湊『闇の摩多羅神 変幻する異神の謎を追う』がドンピシャであった。
ドンピシャという言葉でも足りないかもしれない。
ZUN氏は、1ボス、5ボス、6ボス=Exボスのキャラ作りをこの本にほぼ依存していることが強く推測される状況である。
もはや「東方天空璋を考察するなら、『闇の摩多羅神』を読んでいないと話にならない」状況と言っても過言でない。
だから、私はブログ記事を書く気もあまり起きなかった。
「天空璋? 闇の摩多羅神を図書館ででも探して読めばいいよ」
と一言で済む雰囲気だからだ。
本書を読んでない人は、「そこまでは言い過ぎなんじゃないか」
「摩多羅神を題材にした書籍は他にもたくさんあるんじゃないか」
と言われるかも知れないが、まずは一読することを進める。
本当に、『闇の摩多羅神』の占めるネタのウェイトがあまりにも大きいのだ。

以下、ほんの一部を挙げるだけでも、
1面ボスのエタニティラルバが「常夜(ママ)神」というネタは、
『闇の摩多羅神』における「常世神」と秦河勝の関係のネタであるし、
5面ボスの爾子田里乃(にしだ さとの)、丁礼田舞(ていれいだ まい)の「天狗怖し」(同書では「天狗怖シ」)や、
「童子は狂気を跳ね踊る」(書籍中の「跳ね踊り」)、
6面ボスの摩多羅隠岐奈という、摩多羅神・翁という名前の由来(同書では猿楽の翁面=摩多羅神としている)
隠岐奈のセリフにおける「烏滸の沙汰」や、「秘神マターラ」という曲名の由来、
「秘儀『弾幕の玉繭』」(同書には、常世神信仰を率いた土着民と対立する養蚕の神の話が出てくる)や
「秘儀『穢那の火』」(同書には、摩多羅神=穢那天神(えなてんじん)=胞衣(えな)のタブーを浄化する火神
との話が出てくる)など、
数々のスペルカードの元ネタと、それこそ枚挙にいとまがない。
過去にも、例えば紺珠伝の純狐は『アジア女神大全』がネタ元だったり、
星蓮船が信貴山縁起絵巻が元ネタだったり、
さらに遡れば明石散人らの書籍の影響を強く感じる作品があったり、ということはあった。
しかし、東方天空璋のような、単一の書籍に極めて依存している作品というのは、極めて異例ではなかろうか。
(おまけに天空璋は、東方Projectの6ステージSTG初となる、
ラスボスとExボスが同じという、作者ZUNの「省エネ」が弾けた作品で、新しいエキストラボスが登場しないために、
ますます摩多羅神という元ネタに視点が集中してしまうきらいもある。)

もし、天空璋のジャケットのシルエットが、従来作品と同じように「ボス一人のみ」であれば、
摩多羅という名前が挙がるかもしれないが、おそらく誰も(私を含めて)
『闇の摩多羅神』という種本には辿りつけなかっただろう。
あれはZUN氏のうっかりミスだったのか、それとも、種本を探してみろ、という挑発だったのか、
あるいは、画像検索などの探索を過小評価し、頒布までばれないと高を括っていたのかもしれない。
真相はわからない。
ただ、あの早すぎるネタばらしが、新作の衝撃を抑え込み、ファンの興を少なからず削いでしまったのは残念である。

それにしても腑に落ちないことがある。
不思議なことに、ジャケットのシルエットの3人並んだ姿は、ゲーム内では再現されないのである。
Exボス摩多羅隠岐奈の立ち絵(6ボスの立ち絵というか座り絵ではない)、
両脇に爾子田里乃、丁礼田舞が並んでいるのだが、
エキストラゲーム本編では、ついに3人が並ぶことがないのだ。
あの並びは、『闇の摩多羅神』の表紙絵にもなっている、
「摩多羅神二童子図」(栃木県日光の輪王寺)を強く意識したシルエットである。
当初の予定では、エキストラステージの最終局面で2童子が登場し、ジャケット絵を再現するはずだったのが、
なんらかの事情で叶わなかったのか……。

ちなみに、もちろん『闇の摩多羅神』以外にも多数の雑多なネタが散りばめられている。
例えば、矢田寺成美(やたでら なるみ)のテーマ曲「魔法の笠地蔵」の曲コメント
「数え切れないくらい風変りな地蔵が全国に広まっています」は、
ZUN氏の蔵書で確認されている「ニッポン神さま図鑑」の味噌地蔵や縛られ地蔵などを念頭に置いた発言だろうし、
「秘神マターラ」の曲名に、真・女神転生II他に登場する「秘神マーラ」を思わせたい、というネタなのも間違いないだろう。
私が言いたいのは、全体に占める比重が『闇の摩多羅神』に集中しているということである。

なんにせよ、『闇の摩多羅神』については、とにかく読んでもらうのが早い。

さて、東方天空璋のもう一つの特徴は、セルフオマージュに徹していて、
「どこかで見たような、聞いたようなもの」で構成されている作品だということだ。
これは、プレイした人にはわかると思うが、
ネクロファンタジアに似た曲だったり、ユキ・マイを思わせる5ボスだったり、
四季異変や笠地蔵は花映塚を思わせたり、エキストラのサブ装備は地霊殿のパチュリーの土符だったり、
細かいところを挙げるともうキリがないくらいである。

テキストによれば、原作者ZUN氏の身内に不幸があったそうで、
工数を削減しなければならない切実な事情があったのかもしれない。

東方天空璋の特徴をまとめると以下のようになる。
・特定の書籍を種本にして1、5、6、Exボスを構成した。
・6ボス=Exボスというキャラの少なさ
・Exステージのサブ装備を一つに限定
・作曲、弾幕、キャラそのほかのセルフオマージュの多用
ここから天空璋は原作者の極限までの「省エネ」と「手癖」で作られた作品だと言えよう。

その上で、セルフオマージュの中でも積極的な意義を見いだせるのは、
「地霊殿でうまくいかなかった後方射撃オプション=土符タイプへの再挑戦」ではないか。
直前にFebriで明かされた茨歌仙がウナギの話だったように、
「土用」というのが天空璋のアクセントになっている。
ここで、パチュリーがかつて魔理沙に使わせた「土符」と同じようなオプションを、
「後戸を塞ぐ」武器として再登場させたのは、実に上手い。
(余談だが、オマケテキストの矢田寺成美の文で、魔理沙の後方オプションを提供したのは成美だと明言されている。
つまりパチュリーではないと、ZUN氏が強調しているわけだが、ここのこだわりも興味深い)
天空璋のエキストラを後方射撃主体でプレイさせるという発想については、
まさか東方地霊殿の頃からこの展開を考えていたとは流石に思えない。
摩多羅神=後戸の神というストーリーと、土符タイプの後方射撃の組み合わせをZUN氏が思いついた時に、
天空璋の開発が決まったのではないだろうか。
発想が秀逸な分、一部スペカで季節開放のゴリ押し可能など、調整がやや雑なのが惜しまれるエキストラだが、
話の展開としては東方Projectの歴史の中でも、かなり綺麗であると言えるだろう。

ついでだが、工数削減が効いたのか、致命的なバグはそれほどないようだ。
スペルプラクティスに幾つか不具合があるので修正パッチを待ちたい。

そして、(これも工数削減の余裕のおかげかもしれないが)エンディングのキャラクターの絵が、かなり良い。
紙への作画からペンタブに変えてずいぶん経つを噂されているが、
ここに来てようやく、ZUN氏がペンタブに慣れて来たのかもしれない。
輝針城のころの線がヨタついて妙に病的なエンディング絵と比べると、
天空璋のエンディングのキャラクター絵の線の良さは段違いである。

あまり色々と書いてしまったが、総じて、前作の東方紺珠伝がシステム面も難易度面も挑戦的な作品だったので、
反動という名の一休みを入れたというあたりが正解かもしれない。
ただ、従来の東方ファンにとってみれば既視感ありまくりの作品だとしても、
まだ東方に触ったことのない人にとっては、東方Projectへの入り口として良い作品ではないだろうか。
例え、どれほど省エネと手癖が効いていても、あるいは種本が割れていても、
東方天空璋自体はつまらない作品ではない。
気軽に遊べるし、摩多羅神という興味深い神をネタに展開されており、
東方に興味を持つ層への「扉」としては良い作品だと思う。






(ここから本題)






さて、東方天空璋最大の謎は、摩多羅隠岐奈が「後継者」を探している、
というストーリーが何を意味しているのか、ということだ。
(エキストラステージ後に、後継者探しは口実で、本当の目的は八雲紫と思しき他の賢者へのアピール、
ということが明かされるがそれは置いておく)
後継者探しが当然のように言及されているが、元ネタの摩多羅神には、
二童子(丁禮多、爾子多)の後継者を探している、などという伝説や由来はない。
言うだけ野暮かもしれないが、この東方天空璋のストーリーのネタは、同人ゲーム作家ZUNにとっての、
「何らか」の後継者探し、というイメージを想起させる。

では、具体的に誰(どのサークル)という候補はあるのだろうか。

里乃・舞は、隠岐奈の「手足」であり、
「もし、本当のことを聞いていたらどう行動しただろうか。
 それでも何も変わらないだろう。
 隠岐奈の言う事に逆らうこと等考えられないからだ。」
という設定テキストを読み、ZUN氏の手足となる二人を考えると、
メディアスケープ株式会社でPlay,Doujin!を展開していることでも知られる、
D.N.A. Softwaresに所属する二人、DNA氏とルー氏が思い浮かぶ。
ZUN氏の手足というには、K社の編集である豚氏なども思い浮かぶが、作家と編集という関係は手足とは言い難い。

一方、「同人ゲーム」の後継者、という側面を暗に匂わせているとしたら、どうだろうか。
STGで後継者になり得そうな同人ゲームサークルといって思い浮かぶのは、
えーでるわいす、クロスイーグレット、エンドレスシラフあたりだろうか。
ちょうど東方天空璋が頒布されたのと同じ会場で、
エンドレスシラフは「∀kashicforce -inundation of brigade-」という新作を発表している。

あるいは、もっと直接の後継者として、東京電機大学AmusementMakers出身サークル達、
つまり、西方Projectをかつて作っていた瞬殺サレ道、五月雨を作ったRebRank、
そして雪晶石を作った後解散したProject Noise
(現在は秋空シンセシスというサークルが引継ぎ、「雪景花」を作っている)
の3サークルを想起させたいのか。
ここで一つ、面白い類似があるのは、RebRankが作ったSTG「五月雨」のバリアが、
東方天空璋の季節開放を思わせることである。
特に、秋装備の季節開放は五月雨をどことなく彷彿とさせる。
また、チルノもイメージ的に雪晶石を思わせるとすれば、
もしかすると、東方の後を継ぐ(というかお株を奪う)ような同人ゲームサークルがなかなか出てこない現状で、
ZUN氏が、後輩サークルに密かに『早く俺を倒しに来い!」とエールを送っているのかもしれない。

いや、あるいは、某氏の二人の子供が妖怪じみているので、早く成長させて人間にしてやりたい、
という親の心が……という可能性もなくはない。

このように、様々なことを想像してみるのも、東方天空璋の楽しい遊び方ではないだろうか。
ではでは。
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