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2011/04/19

順序が逆になってしまったが、神霊廟体験版を考察してみよう。

ここで考察するのは「霊界」と「張り付き」だ。

東方の世界観は異界によって拡張されてきた。
幻想郷という(外の世界から見ればこれもまた異界である)基本的な世界に対し、
外部の様々な異界(魔界、冥界、天界、旧地獄、月の都)を
地理的に幻想郷に接続することで世界を広げてきたのである。
ところが、神霊廟の霊界システムは「異界」を地理的な距離ではなく、
層的な距離として捉え直す点で、東方の世界観的な転回といえる。
要するに地理的な大移動ではなく、異なる世界を同時に重ねたのが今回の霊界である。
東方におけるこの手の表現は儚月抄の「表の月」と「裏の月」の関係が嚆矢だろう。
綿月豊姫は表の月と裏の月を瞬時に入れ替えることで、八雲紫の鴉を殺害したのだが
あの描写は今回の霊界システムの近しいものがある。

まあこの発想自体はゲームシステムとして良くあるだろう。
同じマップを複数の世界として切り替えることでリソース削減が出来る。
セガが発売した「ベヨネッタ」などはまさに同一のマップに複数の異界を重ね合わせ、
製作期間の短縮を実現した例だ。
東方神霊廟でも、その場で霊界に入ることで新しいステージを作ることなく世界を拡張した。
現実の世界を層的にずらすことで、複数の異界をいくらでも表現できる、
という手法は今後の東方の世界観を大きく変えていくかもしれない。

さて霊界と関連して神霊廟で特徴的なのは、残機がない時点での「あがき」の表現だ。
これはおそらく「不死身の妖精が何度でもエクステンドする」妖精大戦争への
「反動」として評価するのが妥当だろう。
(花映塚のEDで死を考えたのはチルノだったが、
チルノが妖精大戦争で死についての考察を活かした形跡はない。
大戦争は「戦争」というともすれば陰惨で残虐である事象を、
戦争ごっことしてコミカルに描くことで、死についてのシリアスさを吹き飛ばした印象がある。
死についてのテーマはむしろ神霊廟に現れたのかもしれない)

妖精大戦争は、凍らせる快感という直感的なわかりやすさと、
凍らせること、グレイズ、チャージなどの操作と、
スコア、パワー、ボム、エクステンドなどの諸要素が有機的に関係し、
東方Projectの一つの完成形と言ってもおかしくない秀逸なシステムになっていた。
個人的にはこれを超えるシステムは当分出てこないんじゃないか、と思っている。
だから、なのかもしれない。
神霊廟は妖精大戦争とは違うものを作らなくては、という作者の意識をありありと感じてしまうのだ。
わかりにくいスコアリングシステム、パワーやボム、エクステンドの極端な少なさと関係の不明瞭さ、
トランスによるスペルカードシステムの無意味化、ほとんどの場合での喰らいボムが無効化された。
そしてこの妖精大戦争への反動の骨頂が「満身創痍直前のあがき」なのだ。
(もちろん妖精大戦争から引き継いだものもある。円形のボス体力表示など)

誰も死なないゆるい世界で、死の直前の走馬灯体験のようなものを出すのに意味があるかはともかく、
この「あがき」が神霊廟の特徴になっていくだろう。
仮にあがいている間にエクステンドが可能ならそこにゲーム性が生まれるが、
もしかすると、製品版でもあがきはあがきのまま終わるような調整になるかもしれない。
バックストーリーに

 それでも一縷の望みをかけて神霊は一心不乱に闇を進む。
 そうして自分が生まれた原因も掴めぬまま、無に帰すのだ。

とある。
「無に帰す」とあるからには、あがいた結果エクステンドして生き延びるような希望のある展開を、
製作者は断じて許さないかもしれない。
13弾ということもあり、また死や欲を表現するならば、
あがきを本当にあがきのまま終わらせるというのでも、悪くはないかもしれない。
(ただ、ゲームシステムとしては相当不満が残る可能性もある)

なお体験版では、霊界に入ったのはミスかトランスの状態だけだった。
ラスボスのラストスペルでは、霊界戦闘なんて展開も当然考えられる。

次に、「張り付き」である。
この神霊廟、スコア稼ぎにはとにかく張り付きが重要だ。
あるいはボムや霊界状態での「重なり」。
これがゲーム性はともかく世界観として何を表しているのか、
ずっとわからなかった。
だが、このゲームが欲をテーマにしているなら、答えは一つだ。
それは性欲の表現である。

二軒目ラジオで、ZUN氏はエロの表現としてR-type FINALのような描写を批判していた。
それを踏まえ、性欲のシューティングゲームとしての表現の、
ZUN氏なりの結論が「張り付き・重なり」ではないだろうか。
東方はメカ同士が争うものではなく、人物同士が争う世界観だ。
となると張り付きや重なりに意味が付与されるのは当然の成り行きかもしれない。

なお、このゲームでは霊界では小神霊の効果が倍になるようだ。
なので霊界状態でボスに重なって撃破するのが効率的になる。
現実では重なるとミスするが、形而上的世界(霊界)では重なることができる。
まさにプラトニックラヴといえよう。


さて、ここまで書いて来たが、一つ注意しなくてはならないことがある。
体験版のテーマや方向性は、あくまでも3月11日の大震災以前に作られたということだ。
ゲーム製作にあたっての自粛や自重などはないと考えているが、
あの震災の衝撃によってゲームのテーマ、方向性などががらりと変わってしまう可能性はあるだろう。
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