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2011/08/14

今年も暑いコミケを乗り越えて東方Projectの新作をプレイした。
作品は第13弾「東方神霊廟 ~ Ten Desires.」

いつも通りざっと感想を述べよう。

まず流れとしては、従来の東方作品とまったく同じ。
全6ステージ+Extraステージ。
(スペルプラクティスが復活したのが目新しいか)
システムも体験版をほぼ踏襲している。
ストーリーは、道教の術を用いて尸解仙になった聖徳太子ら一派が復活する、という話。

私が事前にブログ記事で予想した、欲望というテーマ通じてメタ的な要素が入る、といった展開は直接描かれなかった。
一応、魔理沙EDにおいて、神霊達の欲望がプレイヤー達の欲望でもあるかのような、
軽いほのめかしがあるだけである。
(もっとも、「稼ぎたい」とか「隠しエンディングが見たい」なんてのはギャグとしてのメタに過ぎないかもしれない)
「何者かが復活する」というストーリーになったのは当たった(まあこれは当然)
(聖徳太子ネタが来ると踏んで、聖徳太子の生まれ変わりとされる修験道中興の祖聖宝関連で清瀧権現だとか、
物部の怨霊が妖怪化した「寺つつき」が出るかも、などの予想もしていたが、こんな捻った予想は必要なかったようだ)
全体として、まったく「捻りがない」のが特徴という印象を受けた。
宗教戦争とタイシ廟、つまり聖徳太子がそのままご登場である。
ベタである。
そして、4面以降はまたもや洞窟で、その雰囲気が最後まで続く。
(4面は地霊殿1面と雰囲気がそっくり)
あまり雰囲気が変わることもなく、淡々と続くのが今回の作品である。

ストーリーについてあまり語ることもないので、新キャラの紹介をして今回の記事を終えよう。
ゲーム面での評価はもう少しプレイしてからにしたい。
(ただ、現時点では妖精大戦争のわかりやすい面白さには到底及ばないという印象だ)

・4ステージボス 霍青娥(かくせいが)
邪仙。「壁をすり抜けられる程度の能力」の持ち主。通称、青娥娘々。
大陸生まれで、父親に影響を受け、何仙姑に憧れて仙人を目指す。
霍という名家に嫁入りするも、仙人への思いを捨てきれず尸解仙に。
そして日本に渡り、豊聡耳神子に道教の魅力を吹き込む。

――とまあ、こんなキャラ。
宮古芳香の操り主で、戦闘は宮古芳香と二人で行ってくる。
見た目は空を飛ぶ仙女といった趣。
聊斎志異に青娥という話があり、そのキャラが元ネタだろう。
死んだと見せかけて仙人になっているという話など、共通点が多い。
壁抜けは、この聊斎志異の話に出てくる「石を腐ったもののように切れる不思議な鋤」が元ネタか。

ちなみに青娥に関しては別のネタもあるかもしれない。青娥書房という書店である。
ここは『全国日本酒ラベル名鑑』といった酒類の企画などもやっている書店だそうだが、
青娥書房のプロファイルによれば、青娥とは「中国の古代伝説で、月に住むという美女の姮娥(こうが)の名前になぞらえたもの」だという。
この繋がりがあるとすれば、青娥と(儚月抄で名前だけ出てきた)嫦娥が何か関係があるかもしれない。
なお、何仙姑は八仙の一人で、八仙の中で唯一の女性。
茨木華扇のネーミングとも関係しそうだし、何仙姑といえば
京極夏彦の『塗仏の宴』で出てきた「華仙姑処女」を連想する人もいるだろう。
だが何仙姑は武周(690~705)の時代の人、とされているので、聖徳太子の時代とは100年ほどずれている。
青娥が何仙姑に憧れた、という設定はちょっと無理がある気がする。

なおペットのような扱いを受けている宮古芳香だが、ついぞ都良香との関係は明らかにされず。
ゲームとしては、オプション扱いの芳香を撃破して楽になるという、シューティングらしい展開が楽しめる。
    
・蘇我屠自古(そがのとじこ)
亡霊。「雷を起こす程度の能力」の持ち主。
布都との過去の因縁により人間として復活することが出来ず、霊体のまま布都に扱われている。
現在は布都との関係は悪くない。二人とも仏教を嫌っている。

――と、こんなキャラ。
言うまでもなく、刀自古郎女が元ネタだろう。
この女性は蘇我馬子とその妻の「物部の娘」との間に生まれ聖徳太子の后となった人物だ。
そのまんまの名前である。
母親の「物部の娘」は物部太媛だと言われていおり、
つまり元ネタ通りなら、布都とは親子関係、神子とは夫婦関係、というなんとも凄い位置にあるキャラである。

そして、使ってくるスペルカードからして、元興寺の鬼を退治した道場法師の話も元ネタになっている。
すると、屠自古は道場法師の母親という裏設定があるか、あるいは元興寺の鬼の方が屠自古と同一か。
また、亡霊といえば西行寺幽々子と同じである。
設定テキストあたりからも、蘇我屠自古の亡骸がどこかに保存されていると見るべきか。
(ちなみに雷というとどしても衣玖と被る気がしてしまう)

・物部布都(もののべのふと)
人間?(←え?) 尸解仙を自称する道士。「風水を操る程度の能力」を持つ。
物部・蘇我の宗教戦争の黒幕。
神子から、民を治めるために仏教を広め裏で自分たちは尸解仙として不老不死になる計画
を持ちかけられ、蘇我氏を操って仏教を盲信させる。
そして日本古来の神々を信仰する物部と、道教を用いて自ら神になろうとする神子との間に争いが起こり、
物部氏は滅亡する。
その後、神子に先立って尸解仙の実験台になる。

――なぜかキャラ設定テキストで、「人間?」とクエスチョンマークが。
尸解仙は「自称」らしい。作者しっかりしろ。
幻想郷の登場人物なんて、みんな「人間?」みたいなものだろう。
まあ人間? かどうかはともかく、男? と思いかねない外見。
さて、蘇我屠自古が刀自古郎女だったように、
こちらは物部守屋の妹で蘇我馬子の妻だった物部太媛(布都姫)が元ネタであろう。

一応付記しておくと、蘇我馬子の妻が誰であったかは、書によって記載される人物が異なる。
日本書紀には物部守屋の妹、としか記述がなく、紀氏家牒や石上振神宮略抄には太媛とあるが、
先代旧事本紀には蘇我馬子の妻は物部贄古の娘の鎌姫大刀自とされている。
もっとも、旧事本紀は物部氏の関与が濃厚な書なので、
蘇我馬子の妻に守屋の妹が入ったことを記述したくなかったのかもしれない。
ともかく、神霊廟の布都の元ネタは馬子の妻の太媛でほぼ間違いないだろう。

また日本書紀には「蘇我大臣之妻。是物部守屋大連之妹也。大臣妄用妻計、而殺大連矣。」 とあり、
物部・蘇我の宗教戦争の黒幕が蘇我馬子の妻であったことが書かれている。
ここら辺は神霊廟における物部布都の設定と良く一致する。

なお、物部の秘術と道教の融合というだけあって、
物部の先祖である宇摩志麻遅命やその父親の饒速日命と関連したスペルを使ってくる。
天の磐船は、饒速日命が乗って空中飛行したとされる船だし(ゲーム中はただの小舟にしか見えないが……)
物部の八十平瓮(やそひらか)は物部氏が三輪山で大物主大神を祀る時に使われた祭器。
現在も大神神社の祭儀で使われているようだ。
また聖童女「大物忌正餐」「太陽神の贄」は伊勢神宮の式年遷宮で行われる最大の秘儀、
「心御柱奉建」において祭を先導する童女「大物忌」が元ネタ。
心御柱を祀ることが出来るのは、この大物忌だけであり、その際に800枚の平瓮を積み上げるという。
そしてこの秘祭が物部氏と関係するらしいのだが、伊勢の神宮における秘儀中の秘儀なので詳しいことはわからない。
とにかく、物部といえば古代史的な偽史的想像に彩られた一族であり、
そうしたネタがふんだんに使われたのだろう。
ギャグ要素が強い今回の作品だが、特に布都はおちゃめなキャラのようだ。
(色々とあざとい感じがする……)

・豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)
聖人。「十人の話を同時に聞く事が出来る程度の能力」の持ち主。
死にゆく人間の運命に不満を持ち、青娥のもたらした道教に興味を持つ。
そして国の平定のために表向きは仏教を広め、裏では不老不死の研究を進めた。
だが研究上使用した鉱物の毒に侵され、尸解仙になることを決意し、
布都を実験台にして術の成功を確信すると自ら尸解仙になる。
計画では仏教の限界が訪れ世の人々が聖人を求めた時に復活するはずだった。
だが仏教の僧侶たちは神子の計画を見抜き霊廟を封印してきたので復活できなかった。

ところが最近になって神子の伝説が全て虚構だとされたことから、
霊廟ごと幻想郷に移転し、復活しようとした。
しかし、まさにそのとき霊廟の上に白蓮が命蓮寺を建立してしまう。
そして、今回の異変が起きた。

――とまあ、神子の背景を要約すれば以上の通り。
言うまでもなく豊聡耳神子とは聖徳太子その人である。
つまり聖徳太子の女体化である。
デザインは耳に「和」と書かれたヘッドホンのようなものを付けている。(ボーカロイドみたいだ)
持っている笏や剣は、有名な聖徳太子像のデザインを踏襲している。
永琳とはまた違ったタイプの「天才」という感じ。
やたら垢抜けしている現代っ子タイプのように見える。
(お子様向けのバトルアニメに出てくる敵の天才少年とかそういうやつ)
スペルは聖徳太子の業績に加え、斑鳩寺に伝わる「聖徳太子の地球儀」やら、
法隆寺に伝わる救世観音やら、それらしいネタが使われている。

で、神霊廟では、青娥から道教を学んで不老不死の研究をし、
仏教を隠れ蓑にして宗教戦争を起こして物部氏を滅ぼした、という設定。
(永琳に会わせてやりたいとも思う。色々な意味で意気投合しそう)
本来なら日本に仏教を広めた者として仏教側から感謝されてもおかしくない立場だが、
復活は仏教の荒廃が前提なので、仏教側とも仲が悪い。
要するに、神霊廟グループは守矢神社のグループや命蓮寺のグループと対立しうる新しい勢力である。

もう一つ、近年の日本史の学会で力を増している聖徳太子虚構説の話題が、神子の設定の根柢にある。

聖徳太子といえば、「太子信仰」で熱烈な信仰があり、日本全国に伝承地もある。
そして聖徳太子は十人の言葉を聴き分けた、未来予知ができ未来記という書物を残した、空を飛んだ、
などなどの有名な伝説も残っている。
しかし歴史家が虚構とみなしたのは、もちろんこういう話ではない。

冠位十二階や十七条の憲法といった政治制度を作った聖徳太子という人物自体が虚構、
つまり厩戸皇子という人物はいたが、聖徳太子という人物の業績は全て後代の捏造だ、
という説で、歴史学者の大山誠一が中心となって提唱している。
最近では、高校の教科書も厩戸皇子(聖徳太子)という表記になっており、
聖徳太子虚構説は今では相当の影響力がある。
今回、聖徳太子を幻想郷に入れる展開になったのはここら辺を踏まえているのだろう。

こういうわけで、聖徳太子がラスボスだったわけだが、
前々から聖徳太子関連のネタが来ることは多くの東方ファンの間で予想されていたものの、
本人が女性化して登場してくるような捻りのない展開は、面喰らったというのが正直なところである。

そして、歴史上の有名人物を女性化して登場させる、という展開は、
「幻想的」というよりかは「偽史的」である。もしかすると大塚英志あたりの影響だろうか。
古代史はこうした偽史的な言説が歴史ロマンの名のもとに大量に登場しており、
神霊廟もそうした系譜に連なるストーリーといえよう。
曰く聖徳太子は実は道教の影響下にあった、曰く蘇我・物部の宗教戦争は実は神道vs道教だった、曰く聖徳太子は実は女性であった……
話の作り方としては、ある意味ベタに狙いすぎた内容ではあり、東方Projectの作品としては賛否の分かれるところではないか、と思う。


・二ッ岩マミゾウ
化け狸。「化けさせる程度の能力」の持ち主。
新潟県の佐渡島に住んでいた。佐渡では人間社会に溶け込んでいたが、
命蓮寺の宿敵とおぼしき神霊廟一派が復活したことに慌てた封獣ぬえが、幻想郷に呼び寄せた。
狐と仲が悪く、幻想郷の狐と一悶着起こす事件が起きるらしい。

――というわけで、狸である。
見た面は眼鏡っ娘、巨大な尻尾と特徴的なキャラ。
一人称が儂(わし)、語尾は「~じゃ」で喋る。
ちなみに、佐渡弁では一人称はオレ、語尾は「~だっちゃ、~っちゃ」である。
本当に人間社会に溶け込めていたのか疑わしい。

何かに化けた妙な弾幕を使ってくる。
このマミゾウ、三月精で出てきた狸との関係はよくわからないが、
妖怪変化とくれば狐か狸、であるから、ようやく出たというところか。
幻想郷の狐と争うという話は、八雲藍を通じて紫や橙を巻き込むなんて話だろうか。

とまあ、ざっとキャラ紹介はこんなところか。
あまり詳しく書けるほどにはプレイしていないが、
・スペルプラクティスでのみ挑戦できるオーバードライブというスペルがある。
 (永夜抄のラストワードのようなもの)
・特定の条件を満たしてクリアすると見れる、特殊エンディング(真エンディング??)が全キャラにある。
といった隠し要素もあるようだ。
そして毎度のおなじみの強制終了バグもいくつもある。

機会があればまた触れてみたい。
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